人的資本開示とは
人的資本開示とは、企業が従業員を「資本」つまり大切な財産と捉え、その育成や働きがい、多様性への取り組み状況などを具体的に社会へ報告することです。これまで企業は、お金や設備といった「モノ」への投資は詳しく報告してきましたが、「人」への投資についてはあまり触れてきませんでした。しかし、これからは従業員のスキルアップや健康経営、女性活躍推進など、人が成長し活躍するための投資を積極的に開示していく動きが広がっています。
例えるなら、これまで企業が「うちは最新の機械を導入しました!」と発表していたのが、これからは「うちの社員はこんな研修を受けて、こんなスキルを身につけました!」とか「社員が働きやすいように、こんな制度を整えました!」と、人の成長や働きがいについてもしっかりとアピールするようになった、というイメージです。これは、企業の成長には「人」の力が不可欠だという考えが強まっているからです。
なぜ今、話題なの?
この人的資本開示が今、特に注目されている背景には、大きく二つの理由があります。一つは、企業の価値を判断する上で、お金や設備だけでなく「人」がどれだけ活かされているかが重要だという考えが世界的に広まっていることです。特に、長期的な視点で投資を行う投資家たちは、従業員のエンゲージメント [blocked](会社への愛着や貢献意欲)やスキルアップに力を入れている企業こそ、将来性があると見なすようになりました。
もう一つは、日本政府もこの動きを後押ししていることです。2023年3月期決算からは、上場企業に対して、男女間の賃金格差や育児休業取得率など、特定の人的資本に関する情報の開示が義務付けられました。これは、企業が「人」を大切にする経営を推進し、持続的な成長を促すための重要な一歩とされています。私たち一般のビジネスパーソンにとっては、就職や転職を考える際に、その企業がどれだけ従業員を大切にしているかを知る手がかりになり、より良い働き方を見つけるヒントになります。
どこで使われている?
人的資本開示は、特に大企業を中心に導入が進んでいます。例えば、トヨタ自動車では、従業員の多様性を尊重し、グローバルに活躍できる人材育成や、働きがいのある職場環境づくりに関する情報を積極的に開示しています。具体的には、女性管理職比率の目標設定や、育児休業後の復職支援制度の利用状況などが報告されています。
また、ソフトバンクグループでも、従業員のエンゲージメント向上や、デジタル人材の育成状況、ダイバーシティ&インクルージョン [blocked](多様な人材を認め活かすこと)への取り組みなどを開示しています。これらの情報は、企業のウェブサイトのIR情報(投資家向け情報)やサステナビリティ [blocked]レポートなどで確認できます。投資家はこれらの情報を見て、その企業が将来にわたって成長できるかどうかを判断し、私たち求職者も、自分がどんな会社で働きたいかを考える上で、重要な判断材料として活用できます。
覚えておくポイント
一般のビジネスパーソンが人的資本開示について覚えておくと良いポイントはいくつかあります。
- 企業選びの参考に: 就職や転職を考える際、企業のウェブサイトや公開されているレポートで人的資本に関する情報を見てみましょう。従業員の育成に力を入れているか、働きやすい環境が整っているかなど、数字や具体的な取り組みから企業の姿勢を読み取ることができます。給与だけでなく、働きがいや成長機会を重視するなら、この情報はとても役立ちます。
- 自分のキャリアを考えるきっかけに: 企業が開示する「求める人材像」や「育成方針」を知ることで、自分自身のスキルアップやキャリアプランを考えるヒントになります。「この会社はこんなスキルを持った人を求めているんだな」「こんな働き方を推奨しているんだな」と理解することで、自分の市場価値を高めるための行動を計画しやすくなります。
- 会社の変化に注目する: 自分が働いている会社が人的資本開示を行っている場合、その内容を定期的に確認してみましょう。会社が従業員に対してどのような目標を掲げ、どんな取り組みを進めているのかを知ることで、会社の変化をいち早く察知し、自分の働き方や貢献の仕方を考える上で役立ちます。会社が従業員をどのように評価し、投資しているかを知ることは、自身のモチベーションにもつながるでしょう。