ネイチャーポジティブとは
ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは、人間の活動によって失われた自然環境や生物多様性を回復させ、さらに豊かな状態にすることを目指す考え方や取り組みを指します。具体的には、生物多様性の損失を食い止め、2030年までに自然を回復軌道に乗せることを国際的な目標としています。
これまでの環境保護活動は、主に「環境破壊を食い止める」という「ネガティブな影響を減らす」視点が中心でした。しかし、ネイチャーポジティブは、それに加えて「失われた自然を元に戻し、さらに良い状態にする」という「ポジティブな影響を生み出す」視点を取り入れています。これは、単に現状維持を目指すのではなく、積極的に自然資本(自然がもたらす恵み)を増加させようというものです。
例えば、森林伐採を止めるだけでなく、植林活動によって森林面積を増やしたり、生態系が破壊された地域で生物が生息しやすい環境を再生したりする活動がこれに当たります。企業活動においても、サプライチェーン全体で自然への影響を評価し、負の影響を最小限に抑えつつ、正の影響を生み出すような事業活動への転換が求められています。
なぜ今、話題なの?
ネイチャーポジティブが近年注目を集めている背景には、地球規模での生物多様性の急速な損失があります。国連の報告書などによると、過去50年間で野生生物の個体数が大幅に減少しており、気候変動と並んで、人類の生存基盤を脅かす深刻な問題と認識されています。
このような状況に対し、2022年12月にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。この枠組では、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるという「ネイチャーポジティブ」の目標が国際的に合意されました。これにより、各国政府だけでなく、企業や金融機関もこの目標達成に向けた具体的な行動を求められるようになり、一気に注目度が高まりました。
また、投資家や消費者の間で、企業の環境・社会への配慮(ESG)を重視する傾向が強まっていることも、ネイチャーポジティブが話題となる要因です。自然資本の喪失は、企業の事業活動にも直接的・間接的に影響を与えるリスクとして認識され始めており、企業が持続可能な経営を行う上で不可欠な要素となっています。
どこで使われている?
ネイチャーポジティブという考え方は、国際的な政策決定の場から、企業の経営戦略、そして個人の消費行動に至るまで、幅広い分野で使われ始めています。
国際的には、前述のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」において、2030年までのネイチャーポジティブ達成が主要な目標の一つとして掲げられています。各国政府は、この目標に基づき、国内の生物多様性戦略や政策を見直しています。
企業においては、事業活動が自然環境に与える影響を評価し、その負の影響を低減しつつ、正の影響を生み出すための戦略を策定する際に用いられます。例えば、食品メーカーが持続可能な調達基準を設けたり、建設会社が開発プロジェクトにおいて生態系保全対策を強化したりする事例があります。また、金融機関が、ネイチャーポジティブな取り組みを行う企業への投融資を優先する「ネイチャーポジティブ金融」も登場しています。
さらに、世界経済フォーラム(WEF)などの国際機関も、ネイチャーポジティブ経済への移行を提唱しており、経済活動全体を自然と共生する形に変革しようとする動きが加速しています。消費者の間でも、ネイチャーポジティブな製品やサービスを選ぶ意識が高まりつつあります。
覚えておくポイント
ネイチャーポジティブを理解する上で、以下の3つのポイントを覚えておくと良いでしょう。
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「損失を止める」だけでなく「回復させる」:単に自然破壊を食い止めるだけでなく、失われた自然を積極的に元に戻し、さらに豊かな状態にすることを目指します。これは、従来の環境保護の考え方よりも一歩踏み込んだ目標です。
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国際的な目標として合意されている:2022年のCOP15で、2030年までにネイチャーポジティブを達成することが国際社会の共通目標として設定されました。これにより、政府、企業、市民社会が一体となって取り組むべき課題となっています。
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経済活動と密接に関わる:ネイチャーポジティブは、環境問題だけでなく、企業の持続可能性や経済成長にも深く関係しています。自然資本の減少は、食料供給、水資源、気候安定性など、経済活動の基盤を揺るがすため、企業は事業戦略に組み込むことが求められます。
これらのポイントを押さえることで、ニュースなどで「ネイチャーポジティブ」という言葉を聞いた際に、その重要性や意味合いをより深く理解できるでしょう。これは、これからのビジネスや社会の動向を読み解く上で、非常に重要なキーワードの一つです。